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最高裁判所第二小法廷 平成2年(オ)695号 判決 1990年7月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大坪憲三、同石川雅康の上告理由について

所論は、要するに、原審において財産分与の額について被上告人(被控訴人)から不服の申立がないのに、原審が第一審判決を上告人(控訴人)の不利益に変更したのは、民訴法三八五条に規定する不利益変更禁止の原則に反して違法であるというものである。

しかしながら、人事訴訟手続法一五条一項の規定により離婚の訴えにおいてする財産分与の申立については、裁判所は申立人の主張に拘束されることなく自らその正当と認めるところに従つて分与の有無、その額及び方法を定めるべきものであつて、裁判所が申立人の主張を超えて有利に分与の額等を認定しても民訴法一八六条の規定に違反するものではない。したがつて、第一審判決が一定の分与の額等を定めたのに対し、申立人の相手方のみが控訴の申立をした場合においても、控訴裁判所が第一審の定めた分与の額等が正当でないと認めたときは、第一審判決を変更して、控訴裁判所の正当とする額等を定めるべきものであり、この場合には、いわゆる不利益変更禁止の原則の適用はないものと解するのが相当である。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島 昭 裁判官 中島敏次郎)

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